遺産が一定額以上ある場合、7~8合目の相続税申告を行う必要があります。
具体的には、相続した財産から、借金や葬式費用を差し引いた金額が、一定の金額(基礎控除額)を上回った場合に相続税申告が必要です。
この基礎控除額の額は、3,000万円+(600万円×法定相続人数)で計算します。
仮に相続人が2人の場合、3,000万円+(600万円×2人)で4,200万円となり、相続した財産の額が4,200万円を超える場合には、相続税申告が必要となります。
タイムリミットは10ヶ月
相続税の申告と納税は、亡くなった日の翌日から10ヶ月以内に行う必要があります。
もし、この申告期限を過ぎてしまうとペナルティがあります。
相続税が安くなる特例が使えない
期限までに申告書を提出しないと、自宅の土地が8割評価減できる特例や、配偶者の相続税を0円にできる特例が利用できなくなります。
延滞税などが発生する
期限までに申告書を提出しないと、利息に相当する延滞税や、無申告による加算税などのペナルティを支払う必要があります。
対象となる財産は?
相続した財産すべてが相続税の対象となるわけではありません。
相続財産から債務、葬儀費用などを引いたものが相続税の対象となり、一部相続税がかからない財産もあります。
相続税がかかる財産 | 預貯金、株式、土地、建物、生命保険金、死亡退職金 相続時精算課税制度による贈与財産、生前贈与財産など |
相続財産から控除できるもの | 被相続人の債務、葬儀費用など |
相続税がかからない財産 | 墓地や墓石などの祭祀財産 生命保険、退職金のうち一定金額など |
相続税の計算方法
相続税を計算する際には、いったん相続税の総額を計算したうえで、あらためてそれぞれが納める相続税の額を計算します。
(国税庁HPより)
相続財産の評価方法
現金
亡くなった日に残っていた現金を集計します。タンス預金や貸金庫の中に入っている現金も漏れなく計上しましょう。
なお、葬儀費用に充てることなどを目的として、亡くなる直前に引出された預金のうち、ご命日時点で残っていた現金も相続財産として計上します。
預金
預金通帳を確認して、ご命日時点の残高を計上します。
なお、預金通帳が見つからない場合には、銀行に残高証明書の発行を依頼することで、ご命日時点の預金残高を把握することが出来ます。
株式・投資信託
証券会社や信託銀行にご命日時点の残高証明書を発行してもらうと、そこに株式や投資信託の評価額が記載されています。
もし、評価額が記載されていない場合には自分で計算する必要がありますが、上場株式の場合には以下の4つの株価があって、そのうち最も低いものを使って評価額を計算します。
①亡くなった日の終値
②亡くなった月の終値の平均
③亡くなった月の前月の終値の平均
④亡くなった月の前々月の終値の平均
不動産の評価方法
不動産については、土地と建物を別々に評価します。
建物
建物はとても簡単で、毎年5月頃に役所から送られてくる固定資産税の課税明細書に記載された建物の評価額(または価格)がそのまま評価額になります。
もし、課税明細書が見つけられない場合には、役所で固定資産評価証明書という書類を取得できるので、それが課税明細書の代わりになります。
土地
土地の評価方法には路線価方式と倍率方式という2つの計算方式があります。
路線価方式
国税庁が毎年公表する路線価(主要な道路に面した1㎡あたりの土地価格)に敷地面積と各種補正率をかけて計算する方法です。
路線価は国税庁のホームページで確認できます。
https://www.rosenka.nta.go.jp/
倍率方式
路線価が設定されていない場合に、固定資産税の評価額に決められた倍率をかける方法です。
相続税が安くなる2つの特例
遺産が多い場合でも、相続税が安くなる2つの特例を適用すれば、相続税を0円に抑えることも可能です。
なお、これらの特例によって相続税がかからない場合でも、相続税の申告は必要となります。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、故人が住んでいた自宅、事業用に使っていた店舗や事務所、不動産貸付業に使われていた土地について、大幅に評価額を下げてもらえる特例のことです。
配偶者の税額軽減
相続税の税額軽減とは、配偶者が相続した遺産の額が1億6,000万円までであれば、配偶者の相続税が0円になる制度です。
また、相続財産が1億6,000万円を超えても、配偶者の法定相続分までであれば相続税は課税されません。
その他の各種控除
上記以外にもいくつかの控除があります。
適用条件に合う法定相続人であれば利用できるため、自分が適用できる控除がないか確認するとよいでしょう。
未成年者控除
満18歳未満の相続人において、10万円×満18歳になるまでの年数で計算した金額を控除できるのが未成年者控除です。
障害者控除
心身に障害を持つ法定相続人に適用可能。「(85歳-相続開始時の年齢)×10万円」を相続税額から控除できる。
※特別障害者は「(85歳-相続開始時の年齢)× 20万円」
相次相続控除
相続が発生してから10年以内に次の相続が発生した場合、一次相続の相続税を二次相続の相続税から一部控除することができます。
未成年者控除・障害者控除・相次相続控除の税額控除により、相続税がかからない場合には、相続税申告は不要です。
相続税の支払い方法
相続税の納付は、申告と同様に10ヶ月以内に行わなければなりません。
納付は、税務署だけでなく金融機関や郵便局の窓口でも可能です。
また、税金は金銭で一度に納めることが原則ですが、相続税については特別に延納(何年かにわけて納めるもの)や物納(相続などでもらった財産そのもので納めるもの)という制度があります。
これらの制度を利用する場合には、申告書の提出期限までに税務署に申請書等を提出して許可を受ける必要があります。
申告期限に間に合わない場合
遺産分けが申告期限に間に合わない場合、未分割の状態で期限内に申告書を提出しておきましょう。
その際、申告期限後3年以内の分割見込書を申告書と一緒に提出しておくと、①配偶者の税額軽減、②小規模宅地等の特例を後日適用することができ、後日遺産分けが整った段階で相続税の還付を受けることができます。
申告期限を過ぎてしまったら
延滞税
期限までに相続税がなされなかった場合の利息に相当する税金です。
年度によって税率が異なりますが、令和4年度は2.4%です。
無申告加算税
正当な理由なく申告期限までに申告しなかった場合に課される税金です。
自主的に期限後申告した場合は5%
税務調査により期限後申告した場合は15%(50万円超の部分は20%)
重加算税
意図的に遺産を隠した場合のペナルティです。税率は、35%又は40%と重たくなります。
相続税申告を終えた皆さん、お疲れさまでした。
とても大変だったと思いますが、多くの方々はこの7~8合目で相続手続きは終了です。
しかし、遺産が特に多い方は相続山9合目の税務調査対策が残されています。ゴールまではあと少しです。