相続手続きの最後9合目は税務調査対策です。
遺産が多い人は、税務調査が入る可能性が高いですので対策が必要になります。
相続税の税務調査とは?
相続税の税務調査とは相続税を正しく申告したかをチェックするために税務署が行うものです。
税務調査が入る確率は、申告者の約20%程度で、約5人に1人の割合で税務調査が実施されます。
どういう人が対象なの?
税務調査は、申告漏れや計算ミスがあると見込まれるケースを、税務署が事前に調べてから調査を行います。
調査対象になりやすい人は、以下のようなケースです。
1 遺産が多い方
遺産が多い場合には相続税率が高くなり、申告漏れを見つけたときに徴収できる相続税が多くなるため、税務調査が入る確率が高まります。
特に、遺産総額が2億円を超える場合には、税務調査が来る前提で備えておいた方が良いでしょう。
2 高収入なのに遺産が少ない方
故人が高収入だったにもかかわらず相続財産が少ない場合には、申告漏れを疑われる可能性があります。
3 生前の入出金が多い方
故人の預金口座の入出金が多い場合には、申告漏れの可能性が高まるため、税務調査が入りやすくなります。
特に、多額の出金が定期的にあり、その出金理由が明確でない場合には、税務調査が入る可能性が高いでしょう。
4 家族の財産が多い方
故人の奥さんや子供に多くの財産がある場合には、故人のお金が紛れていないか?、過去に贈与税の申告漏れがないか?という視点で税務調査が行われることがあります。
5 税理士に依頼せず申告した方
相続税の申告は非常に複雑で、専門家が関与していなければ申告内容が誤っている可能性が高いため、相続人が自分で申告書を作成している場合も、税務調査の対象になる可能性があります。
6 申告をしていない方
役所に死亡届を提出すると、亡くなったことが税務署に連絡される仕組みになっているため、相続税の申告漏れがある場合には、税務調査の対象になる可能性があります。
ちなみに、税務署は相続税申告が必要と想定される方に対して相続税申告についてのお尋ねという文書を事前に送り、申告漏れを防ぐ対策を行っています。
税務調査はいつ来るの?
相続税の税務調査は、税務職員の人事異動などの事情から、申告書を提出した翌年か翌々年の8月から11月頃に実施されることが多くなっています。
税務調査の流れ
1 税務署からの電話連絡
税務調査は、税務署から相続人の代表者に電話がかかってきて日程調整をすることから始まります。相続税の申告を税理士に依頼していた場合は、税務署からその税理士宛に連絡があります。
その電話で、税務調査の日程の調整が行われますが、税務署の指定する日の都合が悪ければ変更しても構いません。
税務調査の場所は原則として、被相続人の自宅で行われます。既に自宅を売却してしまっている場合などは、相続人の自宅や担当税理士の事務所で調査が行われることもあります。
2 税理士との事前打ち合わせ
税務署の調査官が来る前に、立ち会ってくれる税理士と相続人で事前に打ち合わせをします。
税務調査にどのような心構えで調査に臨むのかを事前にレクチャーします。
また、税務調査で確認するであろう資料を事前に揃えておき、調査官から依頼があればすぐに提出できるように準備をしておきます。
3 税務調査の当日(午前中)
調査官は2名でやってきます。
1人が相続人に質問し、もう1人はメモを取ったり、デジタルカメラで資料の写真を撮ったりします。
【まずは雑談から】
簡単なあいさつと名刺を提示した後、調査官は相続人の緊張をほぐすために雑談をします。
お天気の話や、地元の話など何気ない会話です。
【相続人に対する質問】
軽い雑談が終わると、いよいよ相続人に対する質問です。
ここでは、税務調査の際に聞かれる質問と、税務調査官の意図を合わせてご紹介します。
質問項目①
被相続人の経歴・最終学歴・職業・役職・退職時期など
どのように財産を貯めたのか?
退職金がいつ支給されて、何に使ったのか?
質問項目②
相続人の氏名・年齢・被相続人との関係・職歴・年収・保有所有財産など
相続人以外の親族の氏名・年齢・関係・職業・年収など
被相続人が原資となっている財産(名義財産)がないか?
相続人以外の親族の財産がどの程度あるか?
質問項目③
被相続人の健康状況・死因・死亡前にどのくらいの期間意識があったかなど
いつ頃まで意思能力があったのか?
認知症でなかったかどうか?
入院後の財産の管理状況
質問項目④
預金の管理状況、それぞれの預金の使い道(生活費、入院費、贈与資金等)
生前贈与の有無
各預金が名義預金に該当するか?
質問項目⑤
被相続人の「交友関係」「趣味」「生活ぶり」など
生活状況・趣味・ギャンブルの利用など
4 お昼休み
調査官のお昼を用意する必要はありません。仮に、お昼を用意していたとしても、調査官は必ず断って外でお昼を取りに行きます。
調査官がお昼に行っている間に、相続人と税理士で反省会と午後に向けての作戦会議をして、午後に備えます。
5 税務調査の当日(午後)
午後は13時頃から再開となります。
午後の中心は、午前中のヒアリングに基づいた根拠資料の確認です。
メインで確認されるのは、預金通帳です。通帳は被相続人の通帳だけでなく、相続人の通帳も確認します。
通帳にメモをとっている人は以外に多く、調査官はこのメモを見る目的で通帳確認を行います。
また、貸し金庫がある場合には、相続人を引き連れてその銀行まで貸し金庫の中身を確認しに行くこともあります。
諸々資料の確認が終わったら、最後に必要な部分の写真を撮って資料の確認は終りとなります。
6 調査後
調査終了時に、調査官が今日のヒアリングに対する回答などをメモにまとめて、署名押印を求めてきます。
こちらは任意なので署名押印しなくても良いのですが、内容を確認して問題なければ署名押印をしてしまった方が、その後のやりとりが早く終わる可能性が高くなります。
調査官は、早ければ15時くらい、遅くても17時には帰ります。
通常、実地調査はこの1回のみとなります。その後税務署で検討が行われたり、相続人または税理士が税務職員の質問事項に答えたりするため、すべて終了するには1カ月から3カ月程度かかります。
調査結果の報告と修正申告
調査官による調査が完了すると、調査結果の報告が行われます。追徴税があるのか、追徴税がある場合はその理由と金額といった内容です。
問題がなかった場合は電話のこともありますが、故人の自宅または税務署で伝えられます。
もしすでに行った相続税申告の内容に問題があった場合には、その事項の説明が行われるほか、修正申告を行うように求められる可能性があります。
税務調査を受けるとどうなる?
税務調査に入られた場合、約85%の高確率で追徴課税の対象となります。
なお、申告書に誤りがあった場合には修正申告書を提出するとともに、その増えた財産にかかる相続税の本税と、下記ペナルティが支払う必要があります。
過少申告加算税
税務調査後の修正申告等の際に、無条件で課されるペナルティーです。
税率は10%(新たに納める相続税が、当初の相続税と50万円とのいずれか多い金額を超えている場合、その超えている部分については15%)です。
無申告加算税
相続税の申告をしない状態で税務調査に入られた場合、期限後申告をした場合に課されるペナルティーです。
税率は15%(50万円を超えている部分については20%)になります。
重加算税
意図的に遺産を隠した場合のペナルティです。税率は、35%又は40%と重たくなります。
延滞税
延滞税とは利息に相当する税金です。年度によって税率が異なりますが、令和4年度は2.4%です。
9合目税務調査対策を終えた皆さん、お疲れさまでした。これで相続山のゴールです。
1合目から自力で登ってきた相続人の皆さんは、本当に大変だったと思います。
しかし、相続山には皆さんが登ってきた表の登山ルート以外に、もっと簡単に登れる裏の登山ルートがあったのです。